カスタマージャーニーとは? 顧客の“無意識の行動”を可視化する設計術
——人は、なぜその瞬間に「買おう」と思うのだろう?
あるプロジェクトで、私は顧客インタビューと購買データを照らし合わせていた。
顧客は「比較して決めました」と語る。
だがデータを見ると、比較という行動は一度も行われていない。
その瞬間、私は気づいた。
購買は“意識”ではなく、ほとんどが“無意識”の中で決まっている。
そして、この無意識の流れを地図のように描き出すのが、
カスタマージャーニー(Customer Journey)だ。
この記事では、心理学 × 行動経済学 × マーケティング戦略を統合し、
「初心者〜中級者でも今日から使える」カスタマージャーニーの作り方を解説する。
1. カスタマージャーニーとは?(本質と役割)
カスタマージャーニーとは、
顧客が商品を知り、検討し、購入し、ファンになるまでの“行動・感情・接点”を時系列で可視化した地図
のことだ。
重要なのは「行動」だけではなく、
- そのとき何を感じているか(感情)
- どんな期待や不安を持っているか(心理)
- どこで迷うのか(障害)
- それをどう解決するのか(施策)
まで書き込むこと。
ただ行動を並べただけの「作って終わりの図」はジャーニーではない。
無意識の動きをつかむことで初めて、設計として価値が生まれる。
2. 顧客行動の9割は“無意識”:心理モデルで理解するジャーニー
顧客の行動は、論理よりも「感情」が先に動いている。
■ システム1・システム2(Kahneman)
システム1:直感・無意識の瞬間判断(購買決定の大半)
システム2:熟考・論理的判断
ほとんどの購買は「説明できない形で決まっている」。
■ マイクロモーメント(Think with Google)
・知りたい(I want to know) ・行きたい(I want to go) ・やってみたい(I want to do) ・買いたい(I want to buy)
これらの“瞬間の欲求”を捉えられるブランドが勝つ。
■ ギャップ理論(Expectation Gap)
期待と現実の差が、
- 不満
- 離脱
- 感動
を生む。
ジャーニーとは、この期待ギャップを設計して埋めるためのツールである。
3. カスタマージャーニーで使われる行動モデル
ジャーニーは行動モデルと組み合わせて設計すると精度が上がる。
■ AISASモデル
Attention → Interest → Search → Action → Share
検索行動が重要な商材に強い。
■ DECAXモデル
共感 → 体験 → コンテクスト → 拡張 → 共創
SNS時代の“共感・共有型”マーケティングに最適。
■ AIDCASモデル
比較が必要な高関与商品のときに使われる。
実務では、これらを機械的に当てはめるのではなく、
顧客の行動に合わせてモデルを“選ぶ”ことが重要だ。
4. カスタマージャーニーマップの作り方(テンプレ付き)
私が実務で使っている“5ステップテンプレート”を紹介する。
STEP1:顧客の行動を時系列に並べる
知る → 検討 → 比較 → 購入 → 利用 → 再購入
STEP2:その裏にある「感情」を書く
期待・不安・迷い・喜びなど。
STEP3:タッチポイント(接点)を書く
SNS、検索、LP、メール、店舗、サポートなど。
STEP4:障害(ペインポイント)を書く
「値段が高い」「よくわからない」「信頼できない」など。
STEP5:改善策を記述する
導線改善、FAQ追加、レビュー強化、比較コンテンツなど。
■ 図解:ジャーニーマップの基本構造
【行動】 → 【感情】 → 【タッチポイント】 → 【障害】 → 【改善策】
この5列を埋めるだけで、ジャーニーの完成度は劇的に上がる。
5. 実務での分析ポイント(改善インパクトを出すコツ)
■ ① 顧客が「迷う瞬間」を探す
CVRを上げる鍵は、
この“迷いの瞬間”を取り除くことにある。
■ ② 感情の谷(Emotional Dip)に注目する
感情が落ちるポイントは離脱の温床。
■ ③ 期待ギャップを埋める
正しい情報を出すのではなく、
“顧客が知りたい情報”を出すことが重要。
■ ④ 「買わない理由」を先に潰す
ほとんどの離脱は“情報不足”ではなく“心理的不安”。
6. 【経験談】ジャーニー改善だけでCVRが32%上がった話
あるECブランドで、どれだけLPを改善してもCVRが伸びないことがあった。
データを調べてみると、離脱の80%が “商品詳細ページ” だった。
そこで顧客に聞いてみると、
衝撃的なほどシンプルな回答が返ってきた。
「良さはわかる。でも、サイズ感がわからなくて不安だった。」
施策はただ一つ。
- 「身長別・体型別の比較写真」を追加
それだけでCVRは約32%改善した。
ここから私は確信した。
ジャーニーは“改善すべき場所”を教えてくれる地図である。
7. カスタマージャーニーが失敗する企業の共通点
- 行動だけ並べて、感情が書かれていない
- 理想の顧客像を描きすぎて、現実からズレている
- タッチポイントが企業視点だけ
- 更新されず、壁に貼られたまま数年放置される
- 作って満足し、改善につながっていない
ジャーニーは「作ること」が目的ではない。
改善の起点にすることが本質だ。
8. カスタマージャーニーがビジネスにもたらす効果
- CVR向上(迷いの解消)
- LTV向上(期待ギャップが減る)
- 顧客体験の統一(CX)
- 部署間の共通言語が生まれる
- 施策の優先順位が明確になる
ジャーニーはマーケティングにとどまらず、
企業全体の“意思決定の地図”になる。
9. FAQ
Q1:ジャーニーはどの粒度で作ればいい?
A:ひとつの商品につき1つが基本。ただし複数ペルソナがいる場合は分けて作る。
Q2:BtoBでも必要ですか?
A:むしろBtoBのほうが有効。
意思決定プロセスが長いため、ジャーニーで整理すると案件化率が上がる。
Q3:ペルソナは一人でいい?
A:最優先の顧客(N1)をベースに1つ作るのが最も成功率が高い。
Q4:ジャーニーとファネルの違いは?
A:ファネル=量を見るツール、ジャーニー=質(心理と体験)を見るツール。
10. まとめ|カスタマージャーニーは“無意識を理解する地図”である
カスタマージャーニーの目的は、
顧客の行動を並べることではない。
顧客の中で起きている、
小さな不安、小さな期待、小さな感情の揺れ
を見つけ、整え、導くことだ。
そしてその地図を描ける人は、
施策の優先順位を間違えない。
無意識の流れを理解したブランドは、顧客を迷わせない。
迷わせないブランドは、選ばれ続ける。



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